■オール・アバウト・YAMAGUCHI Keisuke〜山口啓介さんと過ごす午後
11月10日(土)13:00〜16:00(作品・資料の展示紹介)/16:00〜18:00(トーク)
ゲスト:山口啓介(美術家)
トークのお相手:加藤義夫(インディペンデント・キュレーター)、坂上しのぶ(ギャラリー16)
ホステス:大野裕子
協力:カセットプラントファクトリー事務局(山口作子)
参加費:トークの時間のみ 当日¥1000/予約900円(1ドリンク付)

‘80年代以降、大きなうねりの時代に独自の表現を通して国内外で高い評価を受けてきた美術家・山口啓介さん。その活動を紹介しつつ、これまで彼と関わってきた方達を迎えて、アーティストやアートを取り巻く環境の変化と今後について話します。また、現在山口さんが進めている参加型プロジェクト「カセットプラント」とその制作をサポートする「カセットプラントファクトリー」の展示・紹介コーナーを設けます。飲み物とともに、のんびり過ごしながら、CAP HOUSEでしかできない話をみなさんと一緒にできたらと思っています。…大野裕子

 
 
 
 
 

[山口啓介 作品]

《ゲスト》山口啓介(美術家)
1962年兵庫県に生まれる。1985年武蔵野美術大学卒業。1992-93年  Asian Cultural Council によりニューヨーク派遣。文化庁在外研修により、フィラデルフィア、ペンシルバニア大学に滞在。1995-96年大阪トリエンナーレ1994の関西ドイツ文化センター・デュッセルドルフ市特別賞、またアトリエ・ヒューアベックの助成を受け、デュッセルドルフに滞在。現在、東京都と兵庫県で制作、在住


《ホステス》大野裕子
'97年よりC.A.P.に参加。現在C.A.P.理事。企業や商業画廊でアート事業のマネジメント及び広報を担当し、その経験でC.A.P.でもマネジメント側からの視点を持った良きご意見番。CAP HOUSEプロジェクト当初より、同世代のメンバーである女史が集まりmama's barを開始。イベント毎に出店し、アーティストの集う知る人ぞ知るBarに。リビングルームでも出店予定か?きりっとした姿とは裏腹に、プライベートではマンガと猫をこよなく愛するお姉様。

■オール・アバウト・YAMAGUCHI Keisuke〜山口啓介さんと過ごす午後

今回、山口啓介さんをゲストにお呼びしたのは、長年山口さんの作品を見続けていて、そのスタイルの変化、表現の多様性に興味があったからです。

私が初めて作品を見た頃(1990年代初め)、山口さんは大型の版画を制作していました。そして画廊で版画とインスタレーションを組み合わせた作品を発表していました。その後、美しい色彩の花をモチーフとした油彩画のシリーズが生まれ、さらに《カセットプラント》というインスタレーション作品が出てきました。このカセットプラントは、最近ではワークショップとして、作家の手を離れた形で人々をネットワークする活動に発展してきています。
私は山口さんが2005年に発表した《DU-child(劣化ウランのこどもたち)》という、連作の版画シリーズに大きな衝撃を受けました。それは、日本の現代美術では珍しく社会問題を正面から扱い、表現された作品でした。

山口さんのスタイルの変化は、時代ごとの美術スタイルの流行とは関係がありません。そして美しい植物を描く一方で、とても社会的なテーマを作品にして発表しています。両極を同時に表現する山口啓介というアーテストの考えるところを、いろんな角度から知りたいと思ったのでした。
そこで、画廊時代から山口さんの展覧会をコーディネートしてきた加藤義夫さんと、やはり画廊で山口さんの展覧会を行ったり、最近はカセットップラントファクトリーの仕事にも関わっておられる坂上しのぶさんをトークのお相手に迎えました。

13時からは絵画作品や資料の展示と、カセットプラントのワークショップ(参加自由・無料)。
心配された空模様でしたが、きれいな秋晴れで、窓に貼り付けたカセットプラントの植物に陽光が美しく透けていました。会場にはCAP HOUSEらしい、の〜んびりとした時間が流れていい感じでした。

16時からのトークは、休憩をはさんで前半・後半の二部構成。
前半部では、山口さんが展覧会にデビューした89年頃からの逸話を中心に進行。最初の個展(ヒルサイドギャラリー、1990年)に至った経緯、池田満寿夫さんとの出会いのことなど山口さん自身からのお話。そして、加藤さんからは画廊や美術館での個展、グループ展での秘話(実名入り)の数々が初めて明かされました。これは、山口さん本人も知らなかったというウラ事情。アートのけもの道は奥深いのです。また、坂上さんからは山口さんの持つ二つの世界――白黒で表現される版画の世界と豊かな色彩で表現される花の絵画――から、美術で表現される「美」について、また社会問題をテーマとして取り組む作家の姿勢や品性について、熱い想いが語られたのでした。ここでは、山口さんが語った『(自分としては)社会的な問題を(自分なりに消化して)個人的な問題として表現するようにしているし、そこに同時代を生きるリアリティが存在する』という言葉が、私にはとても印象的でした。

休憩時間にはお茶を飲んだり、資料を見たり、ワークショップをしたり、来た人同士で話をしたりでクールダウン。

後半部は、ここ10年取り組んでいるという《カセットプラント》と、その作品からより広がりを目指して今年から始まったワークショップ活動「カセットプラントファクトリー」を中心に、近年の活動についてのトーク。《カセットプラント》は未来への「ノアの箱舟」なのだということなど、いろいろと話が弾みました。客席の参加者からも多様な意見が飛び出し、現代美術とコレクションの問題、鑑賞者教育の必要性と困難さなどなど、奥深い話題にそれぞれがマイクを奪い合うように熱いトークを展開。予定時間を1時間近くオーバーして終了したのでした。しかも話が多岐にわたったため、予定していたインド・ニューデリー国立近代美術館でのグループ展「消失点―日本の現代美術」についての報告に至ることができませんでした。インド報告を楽しみにされていた方には申し訳ありませんでした。

ともあれ、この機会によって、表現スタイルは何であれ、すべての作品が山口さんのなかでは明瞭に一貫していることが、私にはよく分かりました。山口さん、加藤さん、坂上さん、カセットプラントファクトリー事務局の作子さん、中村さん、ご協力ありがとうございました。
また参加して頂いた多くのみなさんとワークショップやいろんな話も含めて、とても楽しい午後を過ごせたことに感謝しています。
どうもありがとうございました!
《ホステス》大野裕子