8月3日
こんばんは。実は家でもコツコツ日記を書くタニグチです。Acte Kobe披露宴編が思わぬ長編になっているので、後編がやってくる前にこちらが上がってしまいました。こうやって文章を書いているとなんだかここ1週間がとても「濃い」日々のように感じられます。C.A.P.の不思議さとか魅力を再発見する期間とも言えますね。少し前のお話と併せて3本立てでお送りします。ひとつひとつのお話がかなりボリュームあります…なにとぞよろしくお願いいたしま…
河村啓生さんの部屋
これは7月22日のことです。今日も今日とてわたしはC.A.P.におもしろいことが転がっていないか探していた。そんなときはやっぱりアーティストさんの部屋に行くのが一番じゃないかーと4階へ。この前「浅山」さん、「池原」さんのお部屋に行ったから、できればア行・カ行を攻めたい。というかアイウエオ順に並べていったら次はもうカ行なのでは…?と考えている間に河村さんのお部屋の前に来ていた。そういえばあまり河村さんのお部屋をじっくり見たことはなかった、と思いつつ電気の消えている室内に足を踏み入れる。もしかして帰ってしまわれただろうか。と振り返ったところで入り口付近の死角で河村さんが荷物を整頓しているのに気づいた。いけない。お外モードだから良かったものの、もう少し気が抜けていたら喉から変な声が出ていただろう。
「あっあッ、こんにちは!!」代わりに無駄に元気よくなってしまった気がする。
河村さんは「あ、こんにちはあ」と答え、「ちょっと所用があってもう少しで出ちゃうんですけどね、ゆっくりしてってください」と気遣ってくれる。生憎自分は家主のいない部屋では落ち着かないタイプの人間なのでまたの機会にしようかしら…という気持ちになった。しかし河村さんはもう少しお部屋にいらっしゃるようなので、写真を撮りつつ、まじまじと作品たちと目を合わせてみる。六甲ミーツのホテルで見たときは河村さんの作品は少し怖いように感じられていたが、夕日の射し込むこの部屋ではなんだか柔らかい表情に見える。そのうちに部屋にかけられた白衣が目に入った。
「そういえばよく白衣着てらっしゃいますけど、どうして白衣着られてるんですか」
わたしがC.A.P.にいるとき、河村さんは高確率で白衣を着てらっしゃる。ような気がする。
河村さんは、えーとね、と記憶をなぞるよう上を見た。
「もともと理系で白衣を持ってて、それを美大でも着て作業してたらそのうち「白衣を着て作業する」イメージがついちゃって、白衣をもらうようになっちゃったんですよ。だからもったいないし今も着てるんです。たぶん4着くらいは持ってますよ」
「まあいつも着てるわけじゃないし、作業着着て作業してるときもあるし」
そうだっけ…?と顔に盛大に出ていたのだろうか。
「粉塵の作業とかのときは作業着のほうが理にかなってるけど、繊維系はこんどは白衣のほうが都合いいんだよね。白衣って糸が出にくい構造になっているので。」
説明を聞いてなるほど~と納得してしまう。強い信念でコスチュームのような作業着を持ってる方もいらっしゃるが、河村さんは目的に応じて創作の服も使い分けてるんだな…と妙な河村さん「らしさ」のようなものを感じてしまう。
ここまでの2部屋でおふたりの近況を聞いてきたので( 詳しくはこちら ⇒今日のC.A.P. その5 – KOBE STUDIO Y3 (cap-kobe.com))、これまた河村さんにも聞いてみる。
「河村さんは最近どんな活動されてますか?直近参加される展覧会とかイベントとか…」
「最近だと広島県のイベントに誘っていただきました。」
「あら、奇遇ですね、」
広島県と聞くと自動的に親しみを持ってしまう。わたしは高校まですべて広島県内の学校に通っていたからだ(現在の実家は岡山にある)。
「へえ、じゃあ福山市って知ってる?」
福山だって!!?福山こそ7年住んだ地元である。ふくやま美術館に通い倒し、駅近くの城で遊んで転んだ中学時代を過ごした。引っ越してからも福山の高校に電車で通っていた。よくよく聞けば本当にその福山市である。
「福山城の築城400年記念式典でお披露目の『城の瓦を使った作品』を作るのに参加するんです、友人からの紹介で。近々3日ほど福山でワーケーションしてきます。」
河村さんは福山がわたしの地元と知って驚いていた。わたしも驚いた。世間って狭い。そして凄い。
福山市は実は広島で2番目に人口が多い。なのにあまり有名ではない。いろいろな創作物の舞台になっているのに都会度では広島市に及ばず、観光力では尾道市にちょこっと及ばないのだ。その福山市がアーティストを呼んで芸術系のイベントをやる…時間の流れを感じた。ちょっと嬉しくなってしまったわたしは、福山で行った方がいい場所やごはん屋さん、歴史までかいつまんで話してしまった。まくし立てるまではいかないかもしれないが、熱意はマシマシだったと思う。しかし、そのお話たちを河村さんはおもしろがってくれたようだった。ありがたい。
「また作品作る際にお話とか聞くかもしれません!」
嬉しい限りだ。「はい!ぜひ!」と今度こそ元気よくお返事した。
カタヤマアヤナさんの部屋
浅山、池原、河村と来たのだ。カから始まるアーティストさんだと…カタヤマさんの部屋に行くしかない!という強い気持ちで河村さんの部屋からカタヤマさんの部屋に足を向ける。わたしは火曜日に来させてもらっているが、カタヤマさんはお部屋にいらっしゃらないことが多い。今日は金曜日だ、どうだろうと部屋に頭だけ突っ込む形で様子を伺うと、カタヤマさんはテーブルの上で作業してらした。
カタヤマさんのお部屋には入って右奥に大きめのテーブル、入り口近くにも細めのちょっとした台、右側の壁には今まで作ってきた作品があり、左の壁際には大きなキャンバスが立てかけられている。わたしの記憶の中のお部屋にはもっと物が無かった気がするが…気のせいだろうか。人ひとり寝転がったくらいは横がありそうな、あの大きなキャンバスは少なくとも絶対無かった。中途半端なお邪魔の仕方をしてしまったためいつ声をかけていいかタイミングがつかめない。L字のような体勢を取ったままあれやこれや考える。その間カタヤマさんは立ったままの姿勢でテーブルに置いたキャンバスに何やら絵を描いていた。座らないで描いている…そして集中されている。と、ちょうどカタヤマさんが筆を置いた。今しかない。
「こんにちは!」
ご挨拶。カタヤマさんはちょっとびっくりした感じで(そりゃそうだと思う)「ああ!」と反応した。カタヤマさんは最近スタジオのアーティストになった方だ。それこそお会いしてからまだ4カ月くらいしか経っていない。たしかスタジオアーティスト展のショップの勘定係をしていたときが初対面で、たくさんお話してくださったんだっけ。とても気さくなお姉さん、という印象である。あと髪型が可愛いな…とこっそり思っています。
しかしカタヤマさんが実際に作業をしたり、絵を描いていたりするところは初めて見た。ご本人からもどちらかというとデザイン畑というような話を聞く機会が多かったから筆を持っていること自体新鮮だ。
「話しかけちゃって大丈夫でしたか…?」「それは大丈夫!」
そんなやり取りをしながら今度こそちゃんと部屋にお邪魔する。テーブルの上には今まさに作業してらしたA4サイズくらいのキャンバスの横に、大量の絵具があった。
「すごい量ですね…絵具…」
「でもね、まだ増やしたいんだよね~」
「ここからですか!?」
アクリルは色集めの奥が深い~とお話されていたが絵具の多さのインパクトが強すぎた。
描いてらしたのは女の子の絵だった。女の子?いや、子どもの顔らしいということはわかるのだ。ただ、目も口も顔のパーツがデフォルメされていて図形で表されている。見ると入り口近くの幅狭な台の上にも似たような作品があった。こちらの顔は痛そうな顔をしていた。「最近はこういう作品を描いてらっしゃるんですか」と聞けば「まあまだ上手くいくかわからないかな。アイデア出すドローイングして、可能性ありそうだから小さいキャンバスで試して、って段階」と返ってくる。そうかいきなり描くだけじゃないんだな…。それにしても簡素な図形の組み合わせなのにこの作品たちはなかなかどうして感情が豊かだ。そう伝えると、カタヤマさんは「元から人間の感情とかどう感じるかに興味があって」といそいそとフライヤーを持ってきた。これだ。
この右の薄い桃色の絵を指してカタヤマさんはわたしに聞いた。
「これ、どういうきもちの絵にみえる?」
えええ、、、。わたしはだいぶ頭を使った。たぶん今日イチだ。作品は頭からピンク色のブランケットを被っているヒト、のようなものを描いている。黒い足先は少し内を向いていて、見ているとなんだかじれったい。たぶん布切れの中で腕を口元に持っていっているのだろう。そのポーズから何か読み取れないかと目を皿にしてみる。うーんなんだか安直な気がするけれど「はずかしそうにみえます、」とわたしは答えた。そもそも「安直な気がする」という気持ちを持っている時点で「邪だな~自分」と思わなかったわけではない。まだそういう風に感じられたところ可愛がってやりたいとは思う。カタヤマさんはわたしの回答を是とも否とも言わず
「わたしはこれを寂しいきもちの絵と思って描いたの」と答えた。
さびしい。うら寂しい。もの寂しい。寂寥感。あまり明るい色と結びつかない感情のように思える。だが「寂しいと思って描いた」と聞くと、あの内向きの脚は何かを耐えていたのではないか、とか、ブランケットにくるまってその気持ちをやり過ごしていたのだろう、とか。考えが浮かんでくる。どうして桃色なのかまでは聞かなかったけれど、それがカタヤマさんにとっての寂しさなのだと思った。パブリックイメージが冷たい寂しさを好んだとしても、カタヤマさんの寂しさはこのカタチをしている。
「こうやってきもちをテーマに描くことが多くて。」
「この作品を見た人にお誘いをもらったこともあってね。なんかいい作品だと思ってもらえることは多いんだろうけど、やっぱりそれはきもちとか心とかに働くからなのかな、って思って」
「きっとそうですよ」とわたしは言った。
あまり伝わらなかったかもしれないが、精一杯の「わたしのきもち」を込めた。あまりにもわたしとは切っても切り離せない話だったからだ。本当に本当に日記のネタが無くなったらいつか書くかもしれない。改めてフライヤーの絵をみると、絵の中の寂しさは「やさしさから生まれる寂しさ」のように思えた。寂しさのあまりだれかを傷つけることもなく、ひとりでくるまる。だれに対してもおなじようにするから、ひとりになる。
カタヤマさんは人間の感情に、きもちの感じ方に元から興味があった。それは他のひとに対してやさしいからだと思う。ひとりで内側をずっと見ていなければ気づかないこともあるけれど、外を見ていなければ気づかないことはもっとある。外を見るのにはエネルギーがいるし、その分こころは擦り減るものだ。純度の高いやさしさがなければ、成し得ない。だからカタヤマさんはやさしいひとだ。
わたしはなんとなく、その後もカタヤマさんの部屋でカタヤマさんと話しつづけた。
心ときもちの話。
今はまだ、日記にしないでおく。二人の内緒話だ。
Welcome to Kobe, Mark!!
このお話だけ今日(8月3日)のお話です。
C.A.P.にMarkがやってきた!いろいろもろもろあったけど、何とか無事に彼はアメリカから神戸へ到着しました。
今年度の六甲ミーツ・アート芸術散歩2022では、C.A.P.はバックアップ役に徹する。そのバックアップ先のアーティストがMarkである。本当はフィンランドからもう2人やってくるはずだったがコロコロ断念。彼ひとりでの作業、もといタイムアタックがここ神戸で始まろうとしているのだ。そうまさしく「タイムアタック」。実はもうあまり時間がない。C.A.P.の工作棟で作業してできたものを8月中旬には淡路島へ輸送し、こんどは淡路島で作業。その2段階作業を経てできた作品を8月の終わりには六甲山へ持っていって設置しなければならない。かなりのハードスケジュールである。
考えれば考えるほど遠い目になってしまうが、その怒涛の作業の前にC.A.P.でささやかながら歓迎会をしようということになった。わたしもありがたいことにお呼ばれしたのだ、ありがたい。
事務所に行くと立食パーティー風の準備がされている。クラッカー、肉まんやウインナー、せんべい、一口ゼリーなどなどが盛られたお皿たちが置かれた横にはビール。まあまあ本数がある。大人はみんなお酒が好きなのか、それともC.A.P.の大人がお酒好きなのか。隅の方に大塚さんが持ってきたというミントが山ほどあるのには笑ってしまった。
「これでモヒートつくろう」
誰かが言っている。またお酒だ(笑)
スタジオアーティストたちの割と良い出席率に加え、C.A.P.に関わりのある人物たちも多く場に揃った。事務所が一気ににぎやかになる。そうこうしているうちに時間になり、Markがやってきた。日焼けのせいなのか、お顔も身体も真っ赤にしてブルーのチェックシャツを着ている。お目目がくりくりしていた。新型コロナウイルス感染症の発生から2年。海外の方と同じ場所にタイムラグ無くアナログで存在していることを不思議に感じた。ZOOM生活が長かったからか感覚としてすっかり遠くなってしまったものだ。シモダさんが集まった人たちに向けて簡単にMarkの紹介をする。ようこそ日本へ~とみんなで言うが、Markはきっと何を言っているかさっぱりだろう。しかしコップにとぷとぷと注がれる液体を見て、目を細めた。この黄金色の液体は万国共通なのでね。
「乾杯!」
結局のところ大人は集まって飲むのが好きなんじゃないか…と最近よく思うのだが、C.A.P.も例に漏れない、のかもしれない。みなみなMarkの歓迎会を大いに楽しんでいる。Markの周りには常に誰かがいて話しをしていた。英語で話しかける人もいれば日本語で果敢に挑みに行く人も。たくさんの人からたくさんの話をされて混乱するだろうに、彼はどれにもひとつひとつ丁寧に受け答えしていたように思う。相手が何を言いたいのかじっと聞いて顔を見て、答える。当たり前のことかもしれないけれど、言語が違うからこそ「丁寧なコミュニケーション」を見られた気がして考えさせられる。わたしも挨拶をした。英語から離れている期間が長いので不安だったが、人間ってすごい。ちゃんと覚えているものだし、ちゃんと伝わるものである。Markはお茶目で素敵なアーティストだった。
「どこか観光地には行った?」「まったく。来て、車で移動して、それだけさ」
肩をすくめる仕草は日本人がやっても様にならないなーと実物を見て思う。彼はシモダさんの運転について話していた。なかなかのスピードだよねという言葉に強く頷いてしまう。そのシモダさんとたかはしさんにはMarkからお土産が届けられた。自作の木器である。
滑らかに彫られた器。色味も落ちついていて大人の持ち物って感じだ。二人とも喜んでらした。
よくよく考えればスタジオアーティストの方々とお酒を飲むのは初めてだ(きちんと成人しています!)。いつもの通りアーティストさんたちともたくさんお話したが、わたしも含めみなさん少しテンションが高い。池原さんなんかは「お酒久しぶりだからな~」と真っ赤っかな顔をしている。浅山さん、池原さん、川本さんたちとはあまり話してこなかった自分の高校のときの話をするなどした。その会話を縫うように「Markにもモヒート作ってあげて!」という声が聞こえてくる。ミント山盛りだったテーブルの一角はいつのまにか立派なモヒートコーナーになっていて、そこでは森さんと大塚さんがせっせとモヒートを作っていた。わたしも人生初モヒートをいただく。ほんのり甘いところにミントのツンとした爽やかさが突き抜けてくる。おいしかった。場所を変えようと椅子に座っていた八木さんの前を通れば「日本画のいい本があるんだが、きみはそういうのに興味あるか?」と聞かれる。
「はい!興味あります!!」「よし、二冊ほど貸そうじゃないか」
C.A.P.のにぎやかな夜は更けていく。