「ARTはどこから⽣まれるのか?-KOBE 1950S-1990S」
ARTとはなにか?というテーマで⾏われた昨年のCAP STUDY。ARTはものであるとは限らないし、美術館で観るものとは限らない。では、ART はどこで観ることができるのか?またどのような場に⽣まれるのか?戦後から阪神淡路大震災直後の50年間に着目し、アーティスト達の社会との向き合い方と、主に美術館の外で行なわれた神⼾のArt の実践を知る講座。神⼾の場と⼈とArtのつながりをあらためて紐解きます。
時間:各回 19:00-20:30 / 会場:Urban Picnic
【人と場所(神戸)と状況1-1950s~1970s】
A-1
10/16(水)「ゲンビから『具体』へ」
講師:平井章一(関西大学文学部 芸術学美術史専修 教授)
「ゲンビ」とは、1952年から57年頃まで関西に存在した研究会「現代美術懇談会」の略称です。この研究会は、戦後の新しい造形を追求する美術家たちが、所属する美術団体、ジャンル、世代を超えて結集し、議論を繰り広げた、同時代の東京にはない画期的な場でした。ゲンビには主導的な美術家が何人かいましたが、なかでも特に先鋭的だったのが吉原治良です。吉原は、1954年、ゲンビに集まっていた一部の若者を引き抜き、自身のグループを結成します。それが具体美術協会、略して「具体」でした。「具体」には、ゲンビのジャンルを解体しメディアを横断する志向が色濃く反映されています。この回では、戦後日本美術を代表する「具体」の芸術性を、そのルーツのひとつであるゲンビの活動から浮き彫りにします。
A-2
10/23(水) 「野外具体美術展」(芦屋公園)
講師:山本淳夫(横尾忠則現代美術館 館長補佐兼学芸課長)
「具体」が大きく飛躍するきっかけとなったのが、1955年、56年の2度にわたって芦屋公園で開催された野外展です。広大な松林という特殊な空間に対応するなかで、従来の絵画や彫刻と行った概念では捉えきれない、革新的な作品が多数生まれました。ふたつの野外展の意義について、最新の調査結果を踏まえてお話しします。
A-3
11/20(水) 「グループ〈位〉」
講師:平井章一(関西大学文学部 芸術学美術史専修 教授)
1965年に神戸で結成された「グループ〈位〉」は、個人を基盤にしたモダニズムの行き詰まりを自覚し、「非人称」という独自の視点から突破口を模索した美術グループです。彼らの活動はあまりにも時代の先端を行き過ぎていたため、当時は正当に理解されませんでしたが、ポスト・モダニズムが本格的に議論されるようになった1980年代になって、ようやくその意義が認識されるようになりました。このグループ〈位〉のメンバーの一人に、奥田善巳がいました。奥田はグループ〈位〉を退会後、モダニズムの末期にはもはや過去の形式とされていた絵画にいち早く復帰して、1980年代、パートナーの木下佳通代とともに、特筆すべき作品を生み出します。この回では、神戸でのグループ〈位〉と奥田の活動から、関西におけるポスト・モダニズムをふり返ります。
A-4
11/27(水) 「奥田善巳の軌跡 立体・インスタレーションから抽象絵画へ」
講師:内村周(西宮市大谷記念美術館 学芸員)
今夏大阪中之島美術館で没後30年を記念した回顧展が開かれた木下佳通代と、公私をともにした奥田善巳(おくだ・よしみ 1931〜2011)は、1960年代より神戸を拠点に活躍した現代美術作家です。1980年代以降、一貫して黒の地塗りに単色の絵の具で彩られた抽象絵画を制作し続けましたが、一方で1965年には河口龍夫らとグループ〈位〉を結成、1971年「第2回現代国際彫刻展」ではコンクール大賞を受賞、1970年代には事物の存在の不確かさを呈示するインスタレーションを発表するなど、コンセプチュアルな仕事を手がけていました。このレクチャーでは、奥田が自身で作成したポートフォリオを手掛かりに、初期から抽象絵画へと到る制作の軌跡を紹介します。
A-5
12/18(水) 「環境造形Q」(メリケンパークほか)
講師:坂上義太郎(元 伊丹市立美術館(現 市立伊丹ミュージアム)館長)
「環境造形Q」は、関西を拠点に活動していた3人の彫刻家、山口牧生(1927-2001)、増田正一(1931-1992)、小林陸一郎(1938-)が、1968年に結成したグループです。香川県小豆島での「日本青年彫刻シンポジウム」を契機に結成されて以来、1988年10月に解散するまでの20年間に渡り、公共的野外彫刻を制作する際に集まり、共同プランニング及び共同制作により未完を含め24以上のプロジェクトを手掛けました。野外の公共空間に置かれる意義を考え、環境と深く関わりながら空間全体の作品化に取り組み、独創的な視点で示唆に富んだプロジェクトを展開したグループの活動を紹介します。
A-6
12/25(水) 「 もの派とは?位相-大地から考える」(須磨離宮公園)
講師:中井康之(京都芸術大学大学院 客員教授)
「もの派」は70年代の日本の現代美術に強い影響を与えた美術動向です。「もの派」とは、どのような美術動向であったのか、成立過程・基本概念・中心作家・主要作品等によってあらためてとらえ直します。そして「もの派」の記念碑的作品であり、神戸の須磨離宮公園で発表された関根伸夫の 《位相-大地》の成因と「もの派」の誕生、さらには「もの派」がその後の日本現代美術界に与えた影響等を概観します。
A-7
1/14(火) 「JAPAN KOBE ZERO 」 (三ノ宮と神戸港第3突堤など)
講師:出原均(アーツ前橋館長)
1970年から1979年頃まで、神戸を拠点にした現代美術家集団、JAPAN KOBE ZEROの活動を紹介します。この集団の活動の主な活動を追い、時代による変遷、つまり、パフォーマンスからインスタレーションへと展開していく流れを見ていきたいと思います。そのことで、1970年代の美術の大きな動きも理解することができるのではないでしょうか。さらに、この集団の活動を、今日の視点から捉えることで、今日の美術にも通じる意義を見出したいと思います。
【人と場所(神戸)と状況2-1970s~1990s】
A-8
1/15(水) 「ハプニング?チュウさんにお聞きします。」
講師:榎忠(アーティスト)+聞き手:武澤里映(兵庫県立美術館 学芸員)
近年では薬莢や大砲の作品で知られる榎忠さん。「JAPAN KOBE ZERO」の中心人物であり、70年代から現在まで、グループの活動に限らず神戸をはじめとする様々な場所でパフォーマンスをされてきました。今回は特に60年代のパフォーマンスを研究中の兵庫県立美術館学芸員の武澤さんを聞き手に、街の中でパフォーマンスすること、パフォーマンスの中での神戸という都市の特徴など、いろいろ深堀りしながら聞いてみます。
A-9
2/19(水) 「南蛮美術館の勇気ある試みー河口龍夫・植松奎二展」
講師:植松奎二(彫刻家)+聞き手:大槻晃実(芦屋市立美術博物館学芸員)
神戸生まれのアーティスト植松奎二さんは1975年にドイツに渡り国内外へと活動を広げ、現在も国際的に活躍しています。今回取り上げる1975年の神戸市立南蛮美術館(現在の市立博物館の前身で今は神戸市文書館になっている。)での二人展は、アールデコ建築の建物の特徴や所蔵品の特色を考慮して行なう点、公立美術館では当時国内の現代作家の個展および二人展は皆無であったという点で大変注目を集めた展覧会でした。聞き手に2021年に植松さんの個展を開催した芦屋市立美術博物館の大槻晃実さんを迎え、70年代の関西での活動と渡独直前のこの展覧会についてお話をお聞きします。
A-10
2/26(水) 「 80年代アート・ナウと関西ニューウェーブ」
講師:杉山知子(アーティスト)
聞き手:山下和也(アーティスト、ARTS STUDY企画担当)
禁欲的な表現が主流だった70年代から一転、豊かな色やイメージが復活した80年代のアート。この頃、兵庫県立近代美術館(兵庫県立美術館の前身)で開かれ若手作家の登竜門となったシリーズ展が「アート・ナウ」です。作家たちは広くて天井の高い空間に競い合うように大型作品や空間全体を使う作品を発表し、そのサイズ感と大胆な色使いは関西ニューウェーブのイメージとして定着しました。ARTS STUDY企画担当の山下和也を聞き手に、アートナウ84′(同85′)の出品者で1984年から旧居留地にスタジオを持ち活動する杉山知子さんに80年代~90年代前半の神戸の街とアートについてお話をお聞きします。
A-11
3/19(水) 「XEBEC と神戸」(ポートアイランド)
講師:下田展久(XEBEC元ディレクター) +聞き手:中川克志(サウンドアート研究)
1989年、東亜特殊電機からTOAに社名変更し、ポートアイランドに本社ビルを建設した神戸の音響機器メーカーが、社屋内にホールを開設した。前代未聞のこのホールはXEBEC(ジーベック)と名付けられ、実験音楽やサウンドアート、コンピューター音楽やワールドミュージックなどのプログラムを2000年春までTOAの予算で実施した。ホールと音楽家やアーティスト、そして熱心な聴衆が育てていった音のコミュニティーと場のあり方について、当時のホールプロデューサー下田展久さんにサウンドアート研究者の中川克志さんがお聞きします。
A-12
3/26(水) 「C.A.P.(芸術と計画会議)と神戸」(CAP HOUSE以前1994-1998年:旧居留地)
講師:杉山知子(C.A.P.初代代表)+聞き手:下田展久(C.A.P.前代表)築山有城(C.A.P.代表)
C.A.P.は1994年にアーティストの杉山知子の呼びかけで理想の美術館についての提案書「これからの美術館」を作った11名のアーティストで結成。拠点は杉山のアトリエがある神戸旧居留地。1995年の震災で、フランスのアーティストたちからの義援金を受け、市民参画のアートイベント;CAPARTYをスタート。以後毎年旧居留地で大規模なイベントを開催。これを継続するために旧居留地の企業を中心にサポーター制度を作り、民間の寄付を原資にしてアーティストのグループが市民に向けて活動するという枠組みでの活動が続いた。全国でも珍しいこうした活動はどのようにして生まれ継続したのか。創設者の杉山に活動を引き継いだ下田と築山が話を聞きます。